◎ 中山英子　

誠の会の中山英子です。会派を代表し、宇留賀議員に続き、阿部議員と共に、通告に従い一問一答方式で私見を交え、市政一般に対する質問をさせていただきます。

松本市が標榜する三ガク都は、それぞれ本市の資産として歴史の中で磨かれてきた存在であり、私自身も誇りに感じるところであります。ただ、価値観が多様な時代にあって、市民の意識と生活の中に３つのガク都はどれだけ浸透しているでしょうか。

ガク都という言葉を聞くたびに、それぞれキャッチフレーズが先行しているような印象を受ける面もありますが、今回は三ガクの岳都をテーマに、10年後、20年後の未来像をどう描くか。そして、山や自然の存在が市民の生活と心により近く喜びを与え、親しみのあるものであり続けることを願い質問させていただきます。

この夏、何本か復活していたようではありますが、登山客が深夜の急行アルプスで来ていたことを知っている人はどのくらいいるでしょうか。山を思う人は、世代をまたぎ義勇伝のように語り、また山に誘われます。山を愛するあまり移住してきた人も少なくはないでしょう。本家本元の市民は、過去にはほとんどの小・中学校で登山が行われ、山を勉強して、楽しさ、すごさから怖さをも学び、憧憬を抱きながら登り、同級生と共に大きな達成感を共同体として味わったのだと思います。学校登山には、日常で味わえない多くの学びを得られる喜びがあるということは言うまでもありません。

このように松本市が岳都であることの象徴でもあった学校登山は、100年以上の歴史がありますが、今や時代の流れとともに登山という形で実施する学校は減ってきています。特に中学校においては、今年度は開成中学校、山辺中学校、会田中学校、奈川中学校の４校のみになってしまったということです。

コロナ禍でトレッキングなど、山に足を向ける大人は、県内外を問わず一時的に増えたと言われる一方、学校登山はコロナで行事が制限され、中断を余儀なくされたことをきっかけに、さらに下火となったということです。この背景には、山に慣れた先生の減少や、先生の仕事の増加など、致し方ない面もあるとは思います。

コロナ以前にも多くの議員の方々が質問され、理事者の見解として、学校登山は本市として大切にしていくべきものと思いを答弁されていることは拝見しておりますが、三ガクの岳都として特徴的な教育でもあった学校登山の減少で、松本の子供が山そのものに触れたり、理解を深める機会が減らざるを得なくなっていることについて、コロナ禍が明けた現段階で、改めまして岳都である本市としての今後の学校登山の在り方や、この地に生まれた子供たちに山を教えるということについて、教育長のご見解をお聞かせください。

◎教育長（伊佐治裕子）　

議員からは、山のすばらしさ、それから友達と登る登山の達成感というようなことをご紹介いただきました。私も中学のときに燕岳に登って、とても苦しかったんですが、達成感を感じた、そのようなことを思い出しました。

ただ、現実的には、議員からもご紹介があったとおり、様々なハードルがあります。

まず、市立中学校における学校登山の実施が減少している要因、このことについて主に３つの背景をご紹介したいと思います。

１つ目は、平成17年度に本市の清水中学校が乗鞍岳を登山している最中に、直径1.5メートルほどの大石が生徒の隊列に衝突して、４名の生徒が重軽傷を負う事故が発生したことです。この事故が訴訟につながったことなどをきっかけに、リスクマネジメントの意識が高まり、学校登山に対し慎重になる傾向が強まっているようです。それは、事故翌年までは、全19校が実施していましたが、10年余りが経過したコロナ直前の平成31年度には、その数が10校に減少し、コロナ禍を経て、議員ご指摘のとおり、今年度は４校と一気に減少しています。

ちなみに、この４校の行き先ですが、乗鞍岳が３校、このうち１校は日帰りです。それから、常念岳が１校です。このほかに、安曇、大野川の中学校が、隔年ではありますが、奥穂高岳登山を行っています。今年度は実施年度ではありませんでした。

２つ目は、集団登山は全員が参加する行事としてハードルが高いということです。そもそも集団で移動する際に、登山中の急な天候変化などに対応できる避難施設が少ないこと。それから、最近では、運動機会の減少により子供たちの体力低下が著しいため、長時間の登山でけがを負うリスクが高まっていることもあります。また、これは以前からですが、体格や体力の個人差があることに加えて、ぜんそくなど基礎疾患があって参加できないという生徒もいます。このようなことから、行き先だけではなく、登山行事そのものを見直す傾向が強まっているということです。

３つ目は、この数年で一気に実施校が減った背景というふうに捉えていますが、登山の準備のための時間を確保することが難しくなってきているということです。従来の学校登山では、私たちも子供のとき経験があると思うんですが、安全に山に登るための学習や行動訓練、それから装備や持ち物を確認するための予備登山など、そのための準備に多くの時間を割いていました。そして、この時間を確保するために、学活の時間に加えて総合的な学習の時間を使うことがしばしばありました。しかし、中学校では、令和３年度に新学習指導要領がスタートしまして、これは令和型日本教育の核として探求的な学びにかじが切られましたので、改めて総合的な学習の時間をその探求的な学びの中核に据えて授業づくりを進める学校が増えたこと、このようなこととコロナ禍も重なって一気に学校登山が減ったものと考えられます。

次に、今後の方針について申し上げます。

先ほど述べたような経過や背景から、学校登山が従来の在り方を見直す時期に来ていることは間違いありません。しかし、岳都を標榜する松本市に暮らす子供たちには、家庭事情や体力的な違いにかかわらず、何らかの形で地元の山の魅力に触れ続けることができるような学習や体験を今後も提供していきたいと考えています。そのためにも、本格的な登山を目指す、それを継続する選択をした学校に対しては、登山の様々なリスクに対する負担感や不安を解消するため、それをサポートできるよう、医療従事者の付添い費用や、この清水中学校の事故以降、市で予算措置をするようになった登山ガイドの費用も含め、必要な経費を確保するとともに、従事していただける人の人材の確保にも努めていきたいと考えております。

以上です。

◎中山英子

様々な事情で今に至ったことのご説明と、今後の方向性についてお聞きしました。
登山学習に力を入れ、毎年、北アルプスを訪れる東京の私立高校の先生から、最近、地元の学校登山と擦れ違わなくなって寂しいという声を聞くそうです。この高校は、かなり工夫をしているようです。灯台下暗しとならないよう、このような事例も参考にしながら、足元にある貴重な宝を生かし、山がある場に育つ誇りを子供たちに植え付ける学びを大切にしていっていただければと思います。

昨今の学校行事の見直しの中で、これまで実施していた学校登山を自然探求学習に切り替えている学校や、比較的挑戦しやすい山に行く学校も増えているということですが、今の時代に合った山岳学習プログラムが必要だと思います。現在取り組んでいることも含め、岳都松本として、子供たちの印象に刻まれる教育プログラムについて、今後どのように進めていかれるお考えでしょうか。

◎教育監（坂口俊樹）

お答えいたします。

先ほど教育長が申し上げたとおり、全員が一斉に頂上を目指す従来の学校登山は、確かに見直す時期に来ていると思います。そこで、探求的な学びの機会とする登山や自然学習等へ切り替えることは、現代の子供たちに適した学習形態になる重要な視点だと考えます。

例えば令和型日本教育の核である探求的な学びを推進するために、上高地や地域の里山といった松本ならではの地域資源を生かした総合的な学習の時間を展開している学校もあります。

具体的に丸ノ内中学校の取組をご紹介しますと、１学年の生徒たちが上高地を訪れ、事前に興味や関心を持った上高地特有の動植物、地形、地質などをグループごとに設定したテーマに沿って観察し、情報収集をしました。その後、学校に戻り情報を整理する際に、上高地の水と地域の川の水質の違いに疑問を抱く生徒や、上高地の動物や昆虫と出会ったことで生態系に興味を持ち、市内の川に生息する蛍の減少に着目して調査するなど、新たな問いを抱き、探求を深める姿が見られました。また、新たな学校登山の形として、体力別に複数のコースを用意し、生徒が自身の体力に応じてコースを選択できるようにしている学校もあります。

大野川中学校では、安曇中学校と合同で昨年度、奥穂高岳登山を行いましたが、１日目は涸沢ヒュッテまで、２日目は奥穂アタックコースとパノラマ周回コースに分かれ活動を行ったそうです。通常、山小屋に残る生徒は、本隊の帰りを待つだけになりがちですが、パノラマ周回コースを十分に楽しみ、かつ山小屋の仕事を手伝うというキャリア教育的な要素も取り入れ、計画していたとのことでした。

松本に生まれ育った子供たちがそれぞれの興味や関心、体力に応じつつ、地元の美しい山の魅力や自然の神秘に触れる機会は、大変貴重であると考えます。

教育研修センターでも、子供たちが山の魅力を感じられるような研修講座を開いており、今年度は13校21名の先生方が受講しました。教育委員会としては、今後も学校や地域と密接に連携しながら、子供たちが地元松本の山に関わるやってみたい活動や学習ができるように支援していきたいと考えています。

以上です。

◎中山英子

お答えいただきました。

様々な事例をお聞きしましたが、とても羨ましく思いました。私も丸ノ内中学校でしたが、大分楽しそうな内容になったと聞いて、とても羨ましい限りです。

小学校５年生のとき美ケ原登山をしましたが、大きなリュックサックを買ってもらって、とてもうれしかったことを思い出します。飯ごう炊さんで作ったカレーライスの野菜は、硬くておいしかったとは言えませんでしたが、学校の友達との山の上での１泊は新鮮でした。キャンプファイヤーをし、布団を並べて雑魚寝したことは忘れられない思い出です。

中学生のときは燕岳に登りましたが、きつかったので、もう山に行くのは嫌だと思ってしまった記憶があります。今の子供たちよりも体力はあったかもしれませんが、また行きたいという気持ちより、山を敬遠する気持ちになった面もあったように記憶しており、もしかすると、それは私だけではなかったようにも思います。

様々先ほどご答弁いただきましたように、ピークを目指す登山にこだわらなくても、山から学べることがたくさんあると思います。初心者の山として入りやすい、例えば小学生も登れる美ケ原を中学生の登山としてプログラムすることも一つの方法かもしれません。

先ほどご紹介があったように北アルプスを目指す場合も、途中まで行って、そこで山を学ぶといった形を取ったりすることで、今度、必ず上を目指したいと思えるような段階を踏んだプログラムや、ご紹介があったような自然探求を通じ、環境との共存につながる学びを挟みながら、山の専門家やガイドさんと一緒にプログラムを改めて組み直していくなど、市を挙げて進めていただければと思います。

さらに、現代のテクノロジーを活用したバーチャル学習や、安全対策を含めた多様なプログラムの導入も、時代に合った山岳学習の在り方として有効かもしれません。

加えて、体を動かす機会が減った現代の子供たちの体力低下は切実な課題です。アスリートのトレーニングでも活用されますが、足場が凸凹で不安定な状況の山道を歩くことは、心身への刺激を促し、バランス感覚なども養われ、運動神経や三半規管の強化につながります。

学校行事の中で登山や山歩きを実践した後、子供の体力や機能測定などのデータを取り入れながら、子供の体力向上へのプログラムをつくって実証実験することは一石二鳥でもあります。いずれにしても、全国へ発信できるような岳都松本ならではの教育プログラムをつくって実践し、山を身近に感じ、山がある豊かな地域に誇りを持てる子供を増やしていただきたいと思います。

このような取組の中で、これまで以上に市内の子供たちが山を楽しみ、この中から一人でも多くの山や自然の伝道師が生まれるような素地をつくっていただきたく思います。

次の質問に移ります。先ほどお話しした都内の高校のように、修学旅行や学習旅行で県外から松本市に来るケースもあるかと思います。その中で美ケ原や乗鞍など山の体験に来る学校は、現在、年間何校ぐらいありますでしょうか。
また、これまでに全国の学校に対して山岳体験のパッケージをプロモーションした実績はありますでしょうか。

◎文化観光部長（小口一夫）

お答えいたします。
修学旅行や学習旅行の誘致は、松本観光コンベンション協会が事務局を務めます長野県学習旅行誘致推進協議会松本支部が主体となって行っております。同協議会によれば、山の体験は主に乗鞍高原で実施されており、ガイドつきトレッキングやシャワークライミングなどの体験学習が実施されております。

乗鞍高原での実績としましては、令和５年度は８校、令和６年度は13校で、来年度も12校の受入れを予定しているそうでございます。

このプロモーション活動としましては、例年、長野県観光機構が主催しています首都圏での宣伝活動や、東京、大阪での相談会に参加して、松本市内の体験施設をまとめたパンフレットや、ユーチューブチャンネルを活用して、山を含む体験学習のＰＲを行っております。
以上でございます。

◎中山英子
取組をしているというお答えをいただきました。

修学旅行に行った場所は、大人になってもう１回行ってみたいという気になってリピートする方が多いと言われています。現在来ている学校にもリピートしてもらい、定着するように、関係団体と協力して、さらに魅力的な修学旅行、学習旅行のパッケージ化を積極的に行って、ぜひ個別の売り込みも視野に入れながら、将来のリピーターが増えることを狙って、顧客開発を行っていただければと思います。

先日、松本エリア観光ブランディングシンポジウムという催しに参加しました。観光プロモーション課の方にもお会いしました。その中で特に印象に残ったのは、様々な自治体と連携し、案内アプリ等の開発で成功を収めている若手起業家の方のお話です。

この起業家の方が指摘されたのは、現代の旅行者が求めるものは、単なるサイトシーイングではないということでした。感度の高い旅行者は、そのまちの歴史や文化、伝統を通じて、その地域の精神性や在り方を感じるビーイングの体験を求めているということでした。つまり旅先での内面的な変化や、精神的な体験に価値を見いだしているのです。このような旅行者に対しては、その地域のルーツやオリジナリティーを歴史や伝統文化といった観点から掘り下げ、それを基にした商品開発を行うことが重要だといいます。しかし、日本には潜在的にすばらしい資源が多く存在するにもかかわらず、その魅力ある物語を十分に伝え切れていないということが現状だということでした。ここにビジネスチャンスを見いだし、音声でその地域の物語を伝えながら、多言語によって案内するアプリを開発し、ヒットしているということでした。

観光面においても、地域の暮らしの質や地元の人々とのコミュニケーションから、その地域に根差した独特の言葉や考え方を伝え、それが観光コンテンツとして価値を持つということでした。住んでいる私たちや子供たちが伝統行事を楽しむ姿を見ることで、その地域の魅力が自然に伝わり、旅する人にインスピレーションを与えることができます。自然や地域独特の文化が暮らす人の日常生活に溶け込んでいるということが重要です。住民の暮らしの質が観光と密接にリンクしているということだと思います。

このような観点から、岳都松本に住む子供たちが心身に刻む体験や学びをしていくことは、外から来る旅行者たちにも感動を与えます。地元の文化や自然と深く結びついた体験や、地元の子供たちが楽しんでいる姿が旅行者に強い印象を与え、松本の魅力をより一層引き立てるということとなります。

次に、美ケ原の話題に移ります。
日本百名山に数えられる美ケ原高原は、旧市街地出身の人々にとっては山の入り口であり、昭和30年代から50年代をピークに観光地としてにぎわいを見せ、私よりも高齢の方々にとっては、思い出深いノスタルジーのある場所であることは言うまでもありません。

私にとっても、子供の頃に見上げた山は美ケ原でした。秋口に山辺の薄川沿いを祖母と東山を眺めながらハイキングしたときの景色などは、心象風景となっています。また、小学校で歌った美ケ原讃歌は、心に残るいい曲で、歌詞もメロディーも今も記憶しています。松本市役所でも、以前、朝流れていたということをお聞きしています。美ケ原のことは、議員になってから市民の方々にどうなっているのかと聞かれたり、もったいない山だから何とかならないのかという声を多く聞き、改めてファンが多い山だということを認識しています。

本市では、令和４年度に美ケ原再生計画が策定されましたが、今、この再生計画がどうなっているのでしょうか。進捗状況をお聞かせください。

◎文化観光部長（小口一夫）

お答えいたします。
現在、松本市では、松本市美ケ原再生計画に基づき、自然環境、移動・交通、情報通信、受入施設、登山道、管理体制、冬の魅力の７つの分野を中心に、令和５年度から具体的な事業を進めています。

各分野ごとの具体的な取組について申し上げますと、自然環境の分野では、令和５年度にどの場所にどのような高山植物などが植生しているか把握するための植生調査を行いました。この調査を基に、令和６年度から３か年計画で、高原に繁茂している笹の有効的な除去方法を探るモニタリング調査を行っています。

移動・交通の分野では、令和５年度から５か年計画で、林道美ケ原線全線のオーバーレイ舗装工事を進めています。
情報通信の分野では、令和６年度に美ケ原駐車場売店にライブカメラを設置し、高原の景色や天候状況をインターネット上で確認できるようにします。また、Ｗｉ－Ｆｉ拠点の増設として、同駐車場売店に加え、令和６年度には王ヶ頭周辺でも利用できるＷｉ－Ｆｉ拠点を増設します。

受入施設の分野では、王ヶ鼻付近への公衆トイレ設置の検討や、駐車場売店と三城いこいの広場の施設改修に向け、関係機関等と協議を進めています。

登山道の分野では、登山者が安心・安全に利用できるよう登山道の定期的な維持管理を実施しています。
管理体制と冬の魅力の分野では、冬山体験ツアーの実現に向け、松本建設事務所と冬季閉鎖される県道等の通行について、それに関する協議を行っております。

引き続き再生計画に基づくスケジュール目標の達成に向け、具体的な事業に取り組んでまいります。
以上でございます。

◎中山英子

過去50年間長きにわたって様々な歴史的な背景を踏まえ、丁寧にできるところから整備を進めていっている状況だということが分かりました。

先月の山の日の８月11日、高校生以来35年ぶりに山頂まで足を運びました。とてもいい天気でした。雲がかかっていましたが、360度のパノラマを味わいました。また、高原の広さがこんなに広かったということは忘れていました。尾崎喜八という詩人が「登りついて不意に開けた眼前の風景にしばらくは世界の天井が抜けたかと思う。」と始まり、そして「尋常の尺度にはまるで桁が外れている。」と読んだ詩のとおりでした。

笹はたくさんありましたが、高山植物も思った以上に守られ、ここでしか見られないたくさんの花が咲き誇っていました。下界との気温差が15度近くもあり、とても爽やかで、温暖化が進む日本の夏において、この涼しさを求めたい人はたくさんいるだろうと思いました。そして、いい意味ともったいない意味の両方とで、一昔前の雰囲気が随所に残っていました。

そこで、次の質問に移ります。
ツール・ド・美ヶ原にも使用されている美鈴湖からの林道美ケ原線を散策しながら車で登ったのですが、曲がりくねった林道沿いには、旧本郷村の全国殉国学徒英霊慰霊塔などビューポイントが幾つかありました。しかし、整備されておらず、非常にもったいないと思いました。美ケ原高原にアクセスしたいと思う人が増えるよう、駐車場や展望台の設置など、林道沿いの周辺の森林の整備をするお考えはありますでしょうか。

◎文化観光部長（小口一夫）

議員ご紹介のとおり、眺望が楽しめるポイントが美ケ原高原に向かう途中にあることは、高原全体の魅力でもあり、観光客の満足度向上にもつながるものと考えております。

現在、林道美ケ原線沿いには、新たな駐車場や展望台の設置の計画はございませんが、松本平を望めるパーキングスペースなどの既存の場所等を活用することは有効であると考えております。

しかし、中には樹木等の生育によって、以前に比べて眺望の確保ができない場所も見受けられますので、今後、国などの関係機関と調整し、樹木等の手入れが可能かも含め、活用の検討を進めてまいりたいと考えております。
以上でございます。

◎中山英子
全体計画が進むことで、森林整備や展望台駐車場の整備も進みやすい状況になっていくと思います。ぜひとも一つずつ実現に向けて具体的に進めていっていただければと思います。

次に、駐車場などがある天狗の露地周辺から王ヶ頭へ向けての案内板や掲示板がばらばらのデザインで統一感に欠けると感じました。観光地として訪問者に分かりやすく快適な環境を提供するためにも、これらの案内板を全体的に整備する必要があると思うのですが、この点について具体的な計画はありますでしょうか。

◎文化観光部長（小口一夫）

議員ご指摘のとおり、既存の掲示板や案内板は、設置者が異なることから、大きさやデザイン等に統一感がなく、ばらばらな状況でございます。また、内容が重複しているものや、老朽化しているものも見受けられるのが現状です。

美ケ原高原に関わる自治体や民間事業者、自然保護団体で構成する美ヶ原高原自然環境保全協議会は、令和５年度に高原内に乱立した老朽化する標識類の現状把握を目的とした現地調査を実施しています。その結果を基に、老朽化などにより再整備が必要な標識類については、今後は統一したデザインで各自治体が再整備を行う方針が示されております。具体的なデザインや整備の時期については、今後、協議会で議論していく予定です。

こうした中、松本市としましても、協議会の一員として、天狗の露地や三城から王ヶ頭周辺までの標識類の再整備を取捨選択も含めながら検討してまいります。
以上でございます。

◎中山英子

特にデザインの統一や案内板の配置においては、一貫性があることで、訪問者が迷わず目的地にたどり着けるだけでなく、地域のブランドイメージ向上にも寄与すると考えます。

観光地全体の魅力を引き出すために、案内板の整備については、ぜひ早めに調整し、実施していただければと思います。

山の日に美ケ原に行ったときのことにもう少し触れますと、老若男女様々な方に会いました。山頂には登れない車椅子の方がご家族の介助で天狗の露地から少しだけ登った辺りで楽しんでいらっしゃいました。また、山頂から少し下った高原地帯では、自転車を担いで歩く大学生の集団に会いました。また、知的な障害を持った方のグループがヘルパーさんと一緒に台上の散策を悠々と開放的な表情で楽しんでおり、まちの中とは全く違った光景に、この高原がとても貴重な場所であるということを短い滞在の中でも感じさせられ、どんな人でも来やすい場所になっていることの重要性を改めて思いました。

松本市も現在、松本市美ケ原再生計画に沿って、再び日本に誇る高原観光地として着実に事業は進められているということです。その中で最も大切になってくるのは、松本市が美ケ原高原の魅力的な玄関口に再びなるためのイニシアチブを取っていくための具体的な構想だと思います。

そのためには、観光に加えて、自然を守り、共存を大切にし、多くの人が自然を学ぶ魅力的な場としての施設及びガイドや質の高い観光レンジャー的な人材の育成と、ロープウエー研究の２つが鍵になってくると考えます。

今後、観光と自然環境の視点を踏まえた魅力ある施設整備とロープウエーの研究を進めるには、本市の考えを示した上で、地元住民や専門家らも一緒になって、未来の美ケ原を前向きに広く検討する必要があると考えますが、いかがでしょうか。お考えをお聞かせください。

◎文化観光部長（小口一夫）

松本市美ケ原再生計画にあるとおり、施設自体が行きたい目的地となることは、高原再生に向けた重要な魅力づくりの一つだと考えています。そのため、老朽化した駐車場売店の建て替えや三城いこいの広場の大規模改修に向けて、内容の検討を進めています

ロープウエーの研究については、昨年度に新穂高ロープウエーの視察を行うなど、高原へのアクセスの有効な手段としての実現可能性を研究しております。

ただし、令和４年12月定例会の柿澤議員、昨年９月定例会の宇留賀議員の一般質問への回答でも述べたとおり、自然環境への影響、厳しい気候条件、費用、設置場所、運営方法など多くの課題があり、長期的な視点で慎重に研究を重ねる必要があると考えています。

美ケ原高原がこれからも多くの市民や観光客に愛され、持続可能な観光地として再生していくためには、議員ご指摘のとおり観光の視点だけではなく、自然保護や学び、体験などの要素も取り入れた施設改修などが必要であると認識をしております。

また、議員ご提案のとおり、未来の美ケ原を全体的に考慮しながら、施設整備などを進めることも非常に重要だと捉えております。
今後、持続可能で、誰もが訪れて楽しみ学べる場所を目指し、関係者をはじめ地元住民や専門家等を交えながら、施設改修やロープウエーの必要性について検討を進める仕組みを考えてまいります。
以上でございます。

◎中山英子

次のステップに進むために積極的に動いているということ、また、懸案であるロープウエーの研究も行っているということでした。
現在、車でアクセスする観光客にとって、美ケ原の玄関口が松本市であるという認識が薄れています。観光客の多くは、美ヶ原高原美術館を最終目的地とし、松本市側の山頂エリアは裏門のような印象すら受けてしまいます。それを取り戻すための一例がロープウエーだと思っています。

三城付近から山頂付近までをロープウエーで移動する場合、距離は約2,000メートル、標高差600メートルあります。一般的なロープウエーの平均速度で計算すると、約６分で山頂に到着します。このロープウエー導入により、高齢者や障害者の方も手軽にアクセスできるようになり、美ケ原の美しい景色や自然観察を１年中楽しむことができ、市民にとっても美ケ原がより身近な存在に戻るでしょう。観光客が美ケ原を訪れた後、多くの人が市街地に戻ることを考えると、浅間温泉や美ケ原温泉、また市街地のホテルへの宿泊が促進され、市内の経済循環にもつながります。心配される自然保護の観点からも、オーバーユース対策と適正な利用方法を様々な角度から研究し、長い目で見て、今ある自然と共存していく方法を徹底的に検証し、岳都松本でしかできない方法を見いだしていく覚悟で臨んでいただきたいと思っています。

長野オリンピック招致のときにも、自然環境問題は非常に大きなテーマとなっていました。そのときの取組の一つであり、私が関わったスケルトンという種目の競技施設、長野市ボブスレー・リュージュパーク、スパイラルについて、最近非常に興味深い話を聞いたので、皆様にお伝えしたいと思います。

スパイラルは、長野市の飯綱高原に向かう浅川地区の山林に、全長約2,000メートルにわたってコンクリート製の競技用トラックを設置するために、山を切り開いて建設された施設です。７年前にトラックの結氷を停止し、現在は競技トラックとしての運用は休止しています。最近では、不凍液漏れがニュースにもなっておりました。この施設が完成したのは1996年で、今年で28年を迎えました。このスパイラルも、様々な意見が交わされる中で建設された施設ですが、昨年、久しぶりに専門家と共に現地を訪れた際、非常に面白い話を伺いました。

建設当時、山を切り開いたことで、一時的に自然が損なわれた部分もありましたが、20年以上にわたり植林や植え替えを継続する努力を続けられ、今では自然環境が見事に回復し、元の豊かな山に戻ったというのです。蛇や熊などの野生動物も再び姿を見せるようになっており、環境が元どおりになったことが確認されています。特に、園内では、長年にわたって塩化カルシウムや消毒剤の使用を控えるなど、環境に配慮した管理が行われてきました。その結果として、自然環境が完全に回復し、今では多くの自然観察会の方々や野鳥の会、草花の会なども頻繁に訪れています。コースの裏手に広がる山道では、散策や観察に訪れる人々の姿が見られます。こうした取組が他国の施設団からも注目されており、長年、管理に携わってきた長野市の担当者は、肝腎の競技は衰退したけど、この自然復活の足跡については、海外の人たちから詳しく尋ねられることが多いと言っていました。

また、もう一つ別の興味を引いた話がありました。日本の著名な建築家で、涸沢ヒュッテや黒沢池ヒュッテなど多くの山小屋を設計した、故人ではありますが、吉阪隆正氏という方の考え方も、このテーマに関連して非常に参考になります。吉阪氏は、スイスでの生活経験や若い頃からの登山経験を通じて、自然保護の概念に新たな視点を持っていました。吉阪氏は、山岳国家でもある日本の触れずに保護するという自然保護の在り方に懐疑的だったといいます。山や自然と調和し、共存し、知恵を持って持続可能な関係を築くことが重要であることを強調し、自らの作品にもその理念を反映させていました。彼の考え方は、山岳国家である日本において、今後の自然保護や環境共生において、非常に示唆に富んでいると感じました。

このように人間と自然との共存という観点から見ると、様々な事例や考え方が存在しています。再度申し上げますが、国内外の幅広い研究や実践例を参考にしながら、時代に合った取組を進めていただきたいと強く願います。そして、松本市が誇る美ケ原がかつてのように多くの市民の人にとって身近な存在となり、さらにほかの地域にはない山を学び楽しむ場として、新しい美ケ原高原の姿を松本市が主体となって描いていただければと思います。

次の質問に移ります。

松本市美ケ原再生計画の中にある美鈴湖エリアについてお聞きします。
このエリアは、自転車競技場のほか、湖周辺にサイクリングコースがあります。また、マウンテンバイクコースをつくれる可能性が大いにあります。そして、ツール・ド・美ヶ原に代表されるロードバイクコースをはじめ、３つの自転車種目がそろうエリアは、国内を探しても多くないと思います。
美鈴湖エリアを自転車の聖地として、マウンテンバイクやロードバイクを含めて環境整備を進めながら、自転車のまち松本を発信していくことはいかがでしょうか。

◎交通部長（田原茂）

美鈴湖周辺は、議員ご紹介のとおり標高が高く、よい記録が出やすいと言われる美鈴湖の自転車競技場や、激坂で有名なツール・ド・美ヶ原自転車レース大会などがございまして、全国から多くのサイクリストをお迎えして大会などが開催をされております。

松本市では、国内や海外からサイクリストを迎える環境を整えるため、今年度から市街地周辺を走るサイクリングルートの整備、松本駅へのサイクルステーションの設置、サイクリストに優しい宿の認定制度などの取組を進めております。
また、乗鞍高原では、ヒルクライム大会をはじめまして、日本の国立公園で初めてとなるパブリックトレイルエリアとして、知名度の高いマウンテンバイクのコースやｅ－バイクのレンタルなどの取組が行われています。

このように市街地や山間地域など、それぞれ地域の特性を生かした取組を総合的に進めながら、松本市全体を自転車のまちとして発信をしていきたいと考えております。
議員ご提案の美鈴湖周辺でのマウンテンバイクコースの整備につきましては、乗鞍高原や岡田地区で既に整備をされているコースの現状を踏まえまして、これらの利用状況や美鈴湖周辺での新たなコースの設置場所などについて、専門家や関係者に意見を聞きながら、今後、研究してまいりたいと考えております。

以上でございます。

◎中山英子

９月号の広報まつもとでは、自転車を特集した表紙や自転車推進の取組が取り上げられており、松本市が自転車のまちづくりに注力していることがよく伝わってきました。ご答弁からも、自転車推進に対する前向きな姿勢が感じられました。

マウンテンバイクに関しては、トレイルコースの整備が進んだことで移住者が増えている自治体もあります。また、都内のマウンテンバイカーたちがトレイルランナーや狩猟、林業関係者と共に、山梨県の山道や登山道のメンテナンスを行い、山林整備に協力するなど、山を守る仲間として共存している事例も存在します。こうした事例に学びながら、美ケ原エリアを自転車の聖地として位置づけ、自転車のまち松本の発展につなげていただきたいと考えます。

自転車と山は、アスリートにとってもコンディショニングの一環として活用しやすい組合せです。これにより、このエリアにスポーツ合宿を誘致することも可能になるのではないかと思います。

スピードスケートの選手たちは、夏場の練習で競技場のバンク、ロード、マウンテンバイクを活用しています。かつて浅間温泉国際スケートセンターがあったにもかかわらず、スピードスケートの選手が松本に来なくなったことはとても残念です。美鈴湖エリアを自転車エリアとして活用し、サイクルツーリズムとスポーツ合宿を結びつけることを検討していただければと願います。

このエリアは、浅間のスポーツエリアとも近く、関連性が大きいとも思います。競技選手時代に夏にカナダへよく合宿に行きましたが、カナダでは自転車が車と同じくらいの優先権を持っていると感じました。自転車さえあれば、レンタカーを借りる必要がないというメリットがあり、私はカナダ滞在中によく自転車を借りたり、購入したりしていました。カナダでは、自転車用ルートが地図に示されており、サイクリングがしやすく、山に行けばマウンテンバイクでの山乗りも簡単にでき、コンディショニングに最適でした。

さらに、自転車と山を生かし、小規模なトレーニングジムがあれば、夏場の合宿等にも理想的な環境となります。美鈴湖エリアと浅間エリアを組み合わせ、自転車と山の利点を生かしてスポーツ合宿の場をつくり上げることを提案し、次の質問に移りたいと思います。
乗鞍では、民間によりｅ－バイクのレンタルがスタートして、好評だということで聞いております。公共交通の充実が図られていない東山の美ケ原高原へのもう一つのアクセス手段としてｅ－バイクを導入してみてはいかがでしょうか。

また、サイクルツーリズムのさらなる推進に向けて、乗鞍と同様に市街地や美ケ原高原でもｅ－バイクの拡充を行政を挙げて取り組んでみてはいかがでしょうか。

◎交通部長（田原茂）

ｅ－バイクはスポーツタイプの自転車に電動アシスト機能を備えているもので、一般の自転車と比べて速度が出やすく、乗るときに注意が必要ではございますけれども、体力に自信のない方でも、坂道や長距離のサイクリングを楽しむことができる非常に魅力的な乗り物であると認識をしております。

市内では、議員ご紹介のとおり、乗鞍高原において観光協会や民間事業者によってレンタルサービスが提供されております。昨年度は年間で353回の利用がございまして、観光客の満足度の向上に寄与しているものと捉えております。
乗鞍高原と同様に市街地や美ケ原高原においても、ｅ－バイクの提供は、サイクルツーリズムの推進に有効であると考えております。

また、他の地域におけるｅ－バイクの導入事例につきましては、松本市でシェアサイクル事業を行っておりますオープンストリート株式会社が神奈川県の湘南エリアでｅ－バイクのシェアリングサービスを展開してございます。松本市においても、ｅ－バイクの導入に向けて、オープンストリート株式会社と協議を進めていきたいと考えております。その際は、安全に利用していただくことを考慮しながら、サイクルツーリズムを進めていきたいと考えております。
以上でございます。

◎中山英子

目的が若干異なるかもしれませんが、都会では電動シェアサイクルの拠点をめぐる競争が激化しているという話を耳にしており、それに伴いｅ－バイクの普及が進んでいることが理解できます。

これを受けても、松本市においてもサイクルツーリズムの観点から、ｅ－バイクのレンタルの拡充は、松本を自転車のまちとしてのブランド戦略を進めるための大きな一歩になると考えています。ぜひこの分野に対するさらなる取組を継続的に推進していただきたいと強く希望します。

次に、自転車利用者にとって不可欠な要素として、自転車が走りやすいルートを示したマップの重要性が挙げられます。自転車が日常的に利用されている多くの海外では、こうしたマップが古くから普及しており、利用者にとって非常に便利なツールとなっています。松本市においても、今後、山岳地帯と市街地を結ぶサイクルツーリズムのさらなる推進を図るためには、自転車に特化したルート案内ツールの導入が不可欠です。これにより、サイクリングルートの案内やほかのサイクリングルートとの連携が実現し、利用者にとってより快適で安全な自転車利用環境が整うと考えます。
以上の点を踏まえ、本市における今後の取組についてお伺いできればと思います。
マップや案内ツールについての具体的な計画や方針についてどのようなお考えかお聞かせください。

◎交通部長（田原茂）

現在、サイクリングルートの情報につきましては、紙ベースのマップを配布しております。松本市を訪れる国内、国外の観光客が紙のマップだけでルートを巡ることは難しく、またマップを持ちながら走行することは大きな危険を伴います。全国のサイクリングルートでは、自転車専用の看板や路面標示によるルート案内を行っております。松本市でも、現在整備をしているサイクリングルートの案内につきましては、路面標示によることとしております。

サイクリングルートを走る楽しみは、このルート沿線の見どころやグルメ、絶景などの観光スポットを巡り、地域の魅力を体感することにございます。他の自治体の事例では、これらの案内情報が掲載されております自転車専用のナビゲーションアプリも導入されて、多くのサイクリストに利用されております。

松本市といたしましても、路面標示の案内だけにとどまらず、今後は地域の魅力を発信し、他のサイクリングルートと連携が可能な案内ツール、アプリにつきまして、松本地域での活用を検討していきたいと考えております。

以上でございます。

◎中山英子

こちらも前向きなご回答をいただきました。ぜひ案内ツールの早めの導入をお願いいたします。
さらに、他自治体との連携についても、ぜひ積極的に進めていただきたいと考えています。
旅行者にとって複数の自治体が協力して提供するサイクルツーリズムのサービスは、非常にありがたいものであり、連携が進むことで、訪れる人々にとっての利便性が大いに向上することでしょう。また、そうした取組により、サイクリングを目的とした旅行者が増えることも期待されます。

昨年まで行われていた松本・安曇野サイクルロゲイニングでは、安曇野市との連携が見られましたし、現在も県が作成するJapan Alps Cycling Roadなど、サイクリングに関する取組が増えています。地域間での連携をさらに広げていくことは、自転車のまち松本としてのブランドをさらに強化し、充実させることにつながります。
地域全体でのサイクリング環境の整備を進めていくことが相乗効果となり、自転車のまち松本として、より多くのサイクリング愛好者や旅行者にとって魅力的な目的地となることを心から願っています。

次の質問に移ります。

山岳観光と環境保護の共存という難しい課題を抱える中、松本市は姉妹都市のスイスのグリンデルワルトやネパールのカトマンズなど、山岳と共存してきた先進地と長い間交流を続けております。山という共通の資産を持つこれらの姉妹都市とは、これまでどういった交流を行ってきましたでしょうか。山岳観光と自然環境などのマネジメントについて、ソフト面でのアドバイスを受けるような交流はされてきたでしょうか。お聞かせいただければと思います。

◎住民自治局長（逸見和行）

それぞれの都市とは、基本的には５年ごとに周年事業を実施しており、主に人的交流や文化体験、学校交流、施設の視察などを行ってきました。また、グリンデルワルトについては、中学生が１年ごとに行き来しながら訪問交流を行い、お互いの都市や文化の理解を深めています。そうした交流の中では、山岳観光や自然環境のマネジメントなどについてのアドバイスを受けるといった交流を実施した経過はございません。

なお、過去におきましては、2001年の世界岳都都市会議や2016年の第１回山の日記念全国大会のような山岳行事に際しては、姉妹都市の皆さんをお迎えして交流してきた経過がございます。

以上です。

◎中山英子

山岳関連の行事への参加や文化面、また人的な交流などが行われてきたということですが、ソフト面での交流に関しては、まだ進展が見られていないとのことでした。

姉妹都市交流というと、これまでは主に文化交流や友好関係の構築が中心だったと考えられます。しかし、グローバル化が進んだここ10年ほどの間で、姉妹都市の間での交流の形も大きく変化し、現在では自治体の課題解決に向けて技術協力や経済的なパートナーシップを結ぶケースが増えてきているという話をよく耳にしています。例えば神戸市とアメリカのシアトル市では、阪神大震災以降、防災技術の共有や都市計画に関する協力体制が深まっています。また、名古屋市とロサンゼルス市は、環境保護や交通インフラの技術交流を進めています。これらの取組は、姉妹都市交流が単なる文化的なつながりにとどまらず、実際の問題解決に向けた具体的な協力へと進化している一例です。

ヨーロッパアルプスの玄関口として山岳観光や環境分野で高い評価を受けているグリンデルワルトや、山岳観光を通じて経済を活性化させているカトマンズには、多くの学びがあると考えます。これらの姉妹都市からは、岳都をさらに発展させるための技術的なノウハウを学ぶことができるのではないでしょうか。そのため、今後は交流の質を単なる文化的な交流にとどまらず、技術的な知見の共有や実践的な協力へと転換していくことを強く提案いたします。

現在、松本市では、西山がアルプスリゾート整備本部、東山が文化観光部と所管が別れているため、岳都松本の全体構造が見えにくい状況にあります。本市の宝である山岳分野について、今後、部局を超えた組織体制を構築し、山岳環境の保全や整備、観光戦略を体系的にマネジメントすることが必要であると考えます。これにより、山岳分野の持続可能な発展を支えるための一貫した取組が実現できると期待しています。
今後の姉妹都市の在り方と組織体制の２点について、臥雲市長のご見解をお聞かせください。

◎市長（臥雲義尚）

２つの観点から質問をいただきました。
まず、姉妹都市との関係の在り方について申し上げます。
スイスのグリンデルワルトとは、旧安曇村の時代から数えて50年以上にわたり交流を深めてきました。また、ネパールのカトマンズとは、姉妹都市提携35周年を迎える今年、私自身が11月に公式訪問をして、さらなる交流を深めていきたいと考えております。

その上で、この姉妹都市との交流、この在り方が曲がり角といいますか、もう１段進化させる局面に来ているという認識は、中山議員と共通しております。この２つの姉妹都市、とりわけグリンデルワルトは、アイガーの麓に位置し、壮観な山岳鉄道やロープウエーを利用して、大自然の絶景や体験を楽しめるスイスで最も人気のある旅行先の一つであります。人口4,000の小さい村ながら、先進的な観光都市として松本が学ぶべきことは数多くあると考えております。これまでの姉妹都市交流の枠を超えて、山岳交通、ブランディング戦略、世界に向けた情報発信といった点で、松本市が様々な知見やノウハウを取り入れていく手段を検討していきたいと考えております。

２つ目でありますけれども、この東山と西山といいますけれども、松本市は18年前に旧安曇村と合併したことで、東西双方に山の観光地を抱えることとなりました。標高2,000メートルにすがすがしい高原が広がる東の美ケ原、3,000メートル級の山々が連なる西の北アルプス、この東の山と西の山は、もちろん共通点もありますけれども、歴史的な経緯も地政学的な特徴も異なることから、私は地域の強みを生かし、住民の意向を踏まえて観光政策を展開していく必要があると考えます。

加えて、今、これからの観光政策を見据えたときに、行政が企画、政策を行う観光戦略から、文字どおりの民間組織としての観光コンベンション協会が改革をして、そしてこの松本市の、あるいは松本地域の観光戦略を主導していく、私はそうした方向にかじを切ることが望ましいと考えております。

したがいまして、松本市内のそれぞれの部局を一つにするというよりも、当面はそれぞれの所管の違いがマイナスに働くことがないように、新たな観光ビジョンを軸に、この観光コンベンション協会の改革を進めて、そして今日、議員から様々な提案がありました先進的な取組を加速していくことが必要だと考えております。

◎中山英子

一部前向きな回答をいただいたと受け取らせていただきます。
長い年月をかけて築き上げてきた姉妹都市との関係は、岳都松本を深め、発展させるための貴重な資源であると考えます。それぞれの姉妹都市が持つ独自の価値を十分に活用し切れていない現状は、非常にもったいないことだと思います。これまでの交流の成果や知見を最大限に活用することができれば、松本市の山岳分野における発展に大きく寄与することでしょう。そのためには、姉妹都市から得られる知恵や経験を総結集し、10年、20年、さらには30年、50年といった長期的な視点での戦略を考える必要があると思います。

本当のことを言いますと、本市の山岳マネジメント部門を一括して組織し、包括的な戦略を立てる体制を整えていただきたいようには思います。このような体制を確立することで、長期的な視点に立った戦略的な取組が可能となり、国内外に岳都としてさらに認知されていくのではないでしょうか。

ロープウエーの導入を検討する場合にも、山岳鉄道やロープウエーの建設に当たって厳格な環境影響評価が行われており、自然環境への影響を最小限に抑えるための技術的な工夫がされているスイスから多くの学びが得られることでしょう。また、地域の景観や生態系を保護するための持続可能な技術や人材育成なども参考になるはずです。こうした事例を具体的に学び、実際に検討することが重要です。そうしなければ、住民や関係者の方々の理解や納得を深めることは難しいと思います。

このような営みを積み重ねることで、松本市は唯一無二の岳都として、県や国を引っ張る勢いを持つことができるのではないでしょうか。姉妹都市との協力を通じて得られる知識と技術を最大限に活用し、山岳分野のさらなる発展を目指して、国や県へ積極的なアプローチを進めていくことを強く願っています。

様々な側面から岳都を考えてみました。中心市街地と同様、岳都に対してもイニシアチブを取って、ありたき姿を描くところから始めていただけたらと願い、私の質問の全てを終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。